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【第2回】人的資本可視化指針の意味と価値

執筆者の写真: Kenneth NishimuraKenneth Nishimura


人的資本可視化指針(以下、指針)がついに、公表されました。

・女性管理職比率・男性育休取得率などの指標と数値

・人材育成方針

など企業も本格的に、人的資本の開示に向き合わなくてはいけなくなってきます。


今回の可視化指針は、「粛々と」マニュアル通り実行すれば良い、といった性格のものではありません。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出し、かつ、中長期的な企業価値向上につなげる経営をしていくのが目的であり、あくまで可視化は手段なのです。いい加減な対応では、投資家にそっぽを向かれ、企業ブランドを棄損することにもなりかねません。


□人的資本可視化指針の意味

指針に従って、しっかりと可視化をしていくことが推奨されています。その中でも、特に注目なのは投資家の立場が強調されていることです。


投資家が知りたいのは、人的資本についての戦略や人事情報について企業・経営者はどういった考えを持っているのか、人的資本の投資、人事戦略、人事制度や人材育成の取組みはどのように進めていき、それがどのように業績につながるのかについての企業・経営者の考え方や理由などでしょう。論理的か、事実に基づく論拠が説得的か深く考え抜かれているか、といった視点で評価をするでしょう。投資家は企業・経営者との対話を経て、その企業が人的資本を業績向上にいかせていけるのかを判断することになります。


つまり

・人的資本が企業の競争優位の源泉になれるのか?どうやって?

・人的資本が持続的な企業価値向上の推進力になれるのか?その理由は?

・人的資本を未来への成長や企業価値向上につなげられているか?根拠は?リスクはあるか?

といった質問をしてくる、厳しく問うてくるということになります。企業・経営者は覚悟した方がよいと思います。


□人的資本可視化の考え方

人的資本を支える基本的なロジックは以下の通りになります。人的投資が会社の業績に影響を与える経路を示すことによって、人的資本可視化の重要性を強調すると同時に、逆から言えば、業績に資するように可視化を進めなければならないことも示しています。


しかしながら、本当にロジックで業績が改善するのだろうか?という疑問も湧いてきます。注意したいのは、ロジックは人的資本投資の意義を示す理念型であって、あくまでも、実際このロジック通りにできるかは企業の皆さんの努力次第です。投資家はそのロジックを意識して企業が行動し、業績をあげられそうか、可能性と結果を見るのです。


また、そもそもこの人的資本可視化の指針には色々なことが盛られており、さらには国内では有価証券報告書への記載の問題、コーポレートガバナンスコードとの関連、そして海外のISOを始めとする様々な基準との整合性なども進めていくと、情報過多で、明確さに欠けている情報の中で、要するに、会社は、そしてHR部門は「何をすればいいのか?」益々霧の中にぶち込まれたような感覚に襲われてしまうでしょう。


なので、ステークホルダーがどういった点に関心を持っているのかを考えつつ、その選択は注意が必要でしょう。


□人的資本可視化指針のポイント

可視化のポイントとしては、第一に、経営の各要素と業績や競争力のつながりを明確化するフレームワーク(価値協創ガイダンス、IIRCフレームワーク等)を活用・参考して、経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性(統合的な相手が納得できるストーリー)を構築していくことが大切です。人的投資と人的資本への投資や人材戦略が業績向上にいかに結びつくのかといった点をステークホルダーに理解してもらう必要があるからです(次回詳細を解説します)。


第二に、開示事項の中身です。国内外の様々な任意の開示基準が示され、それぞれのテーマごとに、開示事項と各基準による対照表が紹介されていますので、慎重に選択することが求められます。


差し当たり、リアルに迫られる開示の場である「有価証券報告書」、そしてそのベースになる「コーポレートガバナンスコード」については、文学的(定性的)な表現で開示の基準が示されています。上場企業にとっては、有価証券報告書への記載が must になって、その曖昧な、しかし本質的な趣旨だけが示されている中で、今後各社が自社の方針、状況を踏まえてステップバイステップで「自らの判断によって」基準を選択していくということなのでしょう。

こうした状況の中で、各企業の対応としては、必ず対応しなければいけないこと、と今後徐々に理想に向かって体制を整備していくこと、を分けることが大事でしょう。直ぐにでも対応が求められものもあるでしょう。

しかしながら、大事なのは、開示のための開示にならないことです。女性の登用比率にしても、開示するのは、その後のPDCAのためであり、どうやって比率を高めてダイバーシティを進めていくかという実体こそ重要ですから。


□人的資本可視化指針の価値

投資家の目線を意識するという意味において、可視化の前段階が重要になってきます。指針には「可視化の前提には、競争優位に向けたビジネスモデルや経営戦略の明確化、経営戦略に合致する人材像の特定、そうした人材を獲得・育成する方策の実施、成果をモニタリングする指標・目標の設定など、人的資本への投資に係る明確な認識やビジョンが必要」と書かれています。






【出典】筆者作成


この前提である

1:経営者自らの明確な認識やビジョンを持つ

2:ビジネスモデルや経営戦略を明確化する

3:経営戦略に合致する人材像を特定・イメージする

4:人材を獲得・育成する方策の実施、指標・目標の設定などを企画する


をしっかりとできれば、指針に従って要素を選択して、丁寧に伝えていく一連の可視化過程が非常にスムーズにいくでしょう。人的資本の可視化にあれやこれや悩むことも減るはずです。


最後に、可視化はあくまで手段であり、投資家に理解してもらうための人的資本の価値向上こそが大事だということを今一度認識を社内で共有すべきでしょう。だからこそ、その「前提」の思考や議論・対話が重要になってきます。ある意味、経営と人事のつながり、いわゆる「戦略人事」を根本的に考えなおすチャンスになるかもしれません。



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